ロ包 ロ孝
 あれから俺は、焦土と化した荒野を宛てもなく走り回っている。どこへともなく消え去った、里美の亡骸を求めて。

「ああ、やっと人が居た」

 壊れたジープに寄り添うようにして足を投げ出し、座っている人を見付けた。

水筒の水をチビチビ飲んではため息をつく様子から、彼は確かに生きて、この世に存在している。

「すいません、人を探しているんです。日本語解りますか? 英語の方が解るかな」

 そう尋ねた男性は、何かに打たれたように俺を見た。

そしてこちらへ向けて差し出された震える手には、しっかりと銃が握り締められている。


∴◇∴◇∴◇∴


「とにかく、あまりにも凄過ぎて……あの砂防壁が無かったら、私も生きては帰れなかったでしょう」

 大きな部屋の真ん中にポツンと照らし出された椅子に座って、関は大きく溜め息をついた。

「はぁぁぁっ……」

「それで彼はどうしたんですか?」

 その僅かな時間も断ち切って、若い学者は質問を続ける。

「それが……【玉女】の龍が消えた後に、坂本さんが居た所迄走りました……勿論【者】と走破術を合わせてです……」

「すると、時速にして120kmは出ていた訳ですな? ぉほっ!」

 温和な微笑みを湛えた老紳士が、自らの頭をペチペチと叩きながら続く。

「はい、坂本さんが【者】を使っていたとしても、当然追い付けた筈なんですが……」

「でも、そこに彼は居なかった」

「ええ。散々走り回ってみましたが、どこにも見当たりませんでした」

 関は事の顛末を見届けた後、港で漁船を奪って日本に帰還した。休息を取るのもそこそこに、事後報告の為、音力へ来ていたのだ。


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