ロ包 ロ孝
「坂本さんとあたしは、もう正式にお付き合いしてるのよね」

 痛い位の視線で里美が睨み付ける。しかし俺だって後には引けない。

「そうだ」

 そっけなくそう返した。

「でも何? それなのに、あたしが抱かれてでも情報が欲しいっていうこと?」

 里美はかなりご立腹のようだ。大きな胸を誇示するかのように、腕を組んで詰め寄ってくる。

「そんな事は言ってないだろう」

「言ってるようなものよ!」

「言ってないって言ってるだろっ!」

「言ってるも同じだって言ってるのっ!」

 ……気付けば俺達は周囲の視線を一身に集めていた。余りに大きな声の口喧嘩だったので、皆がこちらを向いて唖然としている。

ホールには明るめのBGMと食器の触れ合う音だけが響き渡っていた。

「里美、もう少し小さい声でやろう」

 周りの雰囲気に気付いた里美も、恥ずかしそうに声を潜めた。

「自分達の声の大きさを忘れてたわね」

 するとたちまち元の喧騒を取り戻した店内だったが、俺達は居辛くなったので逃げるようにその場を後にする。

「あたし達、もう少し考えて喧嘩しなきゃ駄目ね」

 次の店に向かう道すがら里美が言う。

「え? 俺達喧嘩なんかしたか?」

 女ベタな俺が考えついた精一杯のフォローである。

「フフッ、そうよね。あたし達ラブラブだもんねっ」

 俺と少し間を開けて歩いていた里美が、いつものように腕へ抱きついてきた。

咄嗟の判断で危機はなんとか乗り切ったが、もっと女性の心を読む努力もしなければいけない。

そうだ、今度垣貫にも巻物を見せてやろう。そうすればあいつも格段の進歩を見せるに違いない。

そして俺は垣貫から女性心理を習う。ギブ&テイクとはこの事だ。


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