ロ包 ロ孝
「ねぇ、坂本さん」

「ん?」

「今日は『くっつくな』って言わないの?」

 里美がしがみついている俺の腕は、その胸にギュウギュウと食い込んでいる。

「ああ、今日は少し冷えるしな」

「もう。素直じゃないんだからっ! でもそんな貴男が好きっ」

 里美は更に力を入れて俺の腕を抱き締める。心地好い弾力と共に里美の体温迄もが伝わってきた。

「……里美」

「なぁに? 坂本さん」

「俺達付き合ってるんだから、『淳』って呼べよ」

「ホントに? 嬉しくって泣いちゃいそう」

 そう言う彼女をエスコートし、ネオン街の奥へと歩を進める俺。里美は頬を赤らめながらしずしずと付き従う。

俺は俺で結構イケるかも知れない……と思い始めた夜だった。


∴◇∴◇∴◇∴


「おはようございます」

「ああ、おはよう」

 (多分大いなる嫌味も込めて)『クールマン』と呼ばれているこの俺が、会釈だけでなく挨拶を返した事に驚いて目を丸くしている、我が社の受け付け嬢。

昨日はさぞご機嫌な夜だったんだろうって?

実は……。

昨日も駄目だった。


∴◇∴◇∴◇∴


「淳、淳ってばぁ……」

 ホテルに入り、部屋のあちこちを物色している俺。トイレに入っていた里美が呼んでいる。

「そんな所で大声張り上げるな! はしたないぞ?」

「だってぇ……始まっちゃったんだもん」

「え?」


───────


「あれ? もうお帰りですか?」

「いや、急に仕事が入ってしまって……」

 フロントのおばさんに言い訳をしている俺は、ミジメで哀れな嘘つき男。ああ、ツイてない!


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