ロ包 ロ孝
 ……という訳で、カラ元気ならぬカラ愛想なのだ。そして何が有ったでも無く、今日も一日が過ぎて行った。


∴◇∴◇∴◇∴


 いつもの店で席に着くなり里美が言う。

「淳。今日は一日、悶々としちゃってたんじゃないの?」

 得意の上目遣いで見透かしたように微笑むが、人の心を読む秘術など、蠢声操躯法には無い筈だ。

「う……あ? べ、べつに」

 確かに眠れぬ夜を過ごし、今日一日寝不足に悩まされた俺は、しどろもどろになって答える。

「だからあたしの身体だけでも見ておいたら? って言ったのに」

 そんな事してたら、余計大変な事になったよ。男の生理的構造をもっと勉強したまえ。

……とも言えず黙っていた俺は、いつものコーラをひと口含んだ。

「それともおクチで?」

 危うく吹き出す所だった。しかしなんとか飲み下して里美に向き直る。

「お前なぁ、表現がストレート過ぎるんだよ」

「そぉ? その方が誘い易いんじゃないかと思って……」

 ……まぁそうだけど……俺はそういうのに不慣れなんだよ、里美。

俺は心の中で愚痴っていた。

「それはそうと、何か解ったか?」

 あからさまな話に居心地が悪くなった俺は、氷が溶けてすっかり薄まってしまったコーラを飲み干して話題を変えた。

「そうね。千葉から聞き出した所によると、【前】(ゼン・十声)を体得した者はまだ居ないそうよ?
 サークル自体の歴史も浅そうね」

「そうなのか。じゃあ外部に秘術が漏れたのも、そんなに昔じゃないんだな」

「そういう事になるわね。千葉にしても修練を始めてからまだ1年半しか経っていないらしいわ?」


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