ロ包 ロ孝
 その過去の情報を全て統合し、【臨】(リン)から【在】(ザイ)迄の発声と照らし合わせて【前】(ゼン)を作ったのであろう音力だが、その【前】がまともに完成するのか否か、音力が高倉家の秘術をどう作り上げたのか、じっくりお手並み拝見と行こう。


∴◇∴◇∴◇∴


「山崎、今日はいつもの時間でいいのか?」

 社内ではあくまでも上司と部下なので、みんなの居る所ではまだお互い苗字で呼び合っている。

「ああ、坂本さん。ごめんなさい。今日は小倉部長から残業頼まれてるのよ」

 なんだと? まさか2人きりじゃないだろうな!

「大丈夫よ? 部長は紳士で愛妻家ですもの」

 だから心を読むなというのに!

「最近坂本さん、解り易いのよね! すぅぐ顔に出るんだから」

 束になった書類を後ろ手にして、自分の頬を指差す里美。

「そうなのか? ……気を付けないといけないな」

「あら、その方が素敵よ? 昔はいつも同じ顔だったけど、今は表情が有るし」

 くるくるとその表情を変えながら話す里美。そういえば幾つかのクライアントからも言われた。「近頃、坂本さんとの仕事が前よりずっとし易いです」と。

個人成績もトップに返り咲いたし、彼女はきっと(古い表現だが)『アゲまん体質』に違いない。

しかし里美が残業ということは……今夜もオアズケだ……。

「坂本主任、大丈夫っすか? ああ里美さん、どうもっす」

 同じ課の栗原だ。里美は手を小さく振って答えている。

「凄くお疲れみたいなんすけど……」

「いやぁ栗原君。なんでもないよ、有難う」

 ……しまった。そんなにしょげていたのか! またしても里美に見透かされてしまう所だった。


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