ロ包 ロ孝
「ノートパソコンは持って来たか?」

 しかし俺は俺だ。男はどっしり腰を据えて泰然自若としているものだ。

「ああ。淳が言った通り、ケーブルもな。でもデータを送ってくれれば済む話じゃないのか?」

 そう言いながらも垣貫は、小まめにテーブルを拭いている。

「まぁいいから始めよう」

 やはり俺は垣貫みたいな軟派な男にはなれそうもない。彼のテクニックを盗むのは一先ず置いといて、本題である作業に入った。

「ネットを介さないのは念の為だ。そしてこれは個人の情報として管理してくれ。……どうだ? このファイルは」

 里美が翻訳した蠢声操躯法の全文を見て垣貫は声を上げた。

「おっ? これは! どこから手に入れたんだ? 発声の呼び名が違うのは何故なんだ?」

「実は……」

 俺と里美はこれ迄のいきさつを事細かに話し、政府の機関が真犯人である可能性も捨て切れない現状を伝える。

「……という訳なんだ」

 暫らくして

「はぁ……。そんな事も有るんだな。その糸の先に何が織り成されているのか、実に興味深い」

 とは言ったものの、余りの事に動揺を隠せないでいる垣貫。

「でもまさか政府は無いだろう!」

 そう発した声が裏返っている。

「まあ兎に角、今日は垣貫にこれを渡して、まずは皆で音力での高みを目指そうという訳なんだ……」

「そうか……。謎を解明する事については余り力になれそうも無いが、いいのか?」

「お前は忙しいからな。何かの時にでも力添えを頼むよ」

 出来る限りの協力をするとの頼もしい約束を得て、俺達は垣貫と別れた。


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