ロ包 ロ孝
「なぁ里美ぃ」

「今日スルの? もうすぐ真夜中よ?」

「解ってるよ。いいから聞きなさい」

「あ、はい……」

 いつも話を先読みしてくる里美を制して、俺は大仰に告げる。

「今度家に来て、なんか作ってくれよ」

 これは昨晩、何度も枕相手に練習した台詞だった。偉そうな態度で『男らしさ』を演出したつもりなのだがどうだ?

「やったぁ! 今度こそホントのお呼ばれね?」

 里美は喜んでいるようだから結果オーライだな。


∴◇∴◇∴◇∴


 俺は普段からナニかと多忙で、寝に帰るだけの我が家はかなりの散らかりようだ。しかし今日は里美が来る日なので、会社に休みを貰って朝から一心不乱に掃除をした。

全てが終わり、ピカピカになったレザーソファーに身体を沈め、ゆっくりと煙草をふかす。

2人にとって、今日は特別な日になりそうだ。


───────


 気が付くともう既にいい時間になっている。「そろそろかな」と逸る気持ちが身体の変化となって現われている。

 まだ待て。お前の出番はもっと後だ。

  ピン  ポ〜ォン

 この間延びしたチャイムの音も久々に聞いた気がする。来客なんてここ数ヶ月の間、1人も来た例しが無かったのだ。

「待ってたよ。部屋の鍵は開けておくから」

 モニターで確認し、エントランスのロックを解除する。……部屋に里美が上がって来る、僅かな時間ももどかしい。

  ガチャ

 ドアが開く! 里美が来た!

「おじゃましまぁす。最初間違えて、1階下のお部屋を呼んじゃって……」

 仕事上のケアレスミスは皆無の里美も、今日ばかりは舞い上がっているようだ。


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