ロ包 ロ孝
それは空気が乾いていて、いつにも増して爽やかな朝の事だった。
「山崎さんだ! おはようございます!」
「おはよう柳下君。今日も1日頑張りましょう。じゃあね」
まずい、山崎だ。人目の多いこのロビーでアイツに見付かるのはヨロシクない。
俺は持っていた新聞で顔を隠しながら、認証ゲートが有る2階へと続くエスカレーターに急いだ。
「……くううっ、いいなぁ。山崎さんって誰と付き合ってんだろ」
「柳下、知らないのか? なんか噂に依れば『意中の男性(ヒト)』が居るらしいぜ?」
「いいなぁその人! あんなに可愛い女性(ヒト)から好かれてるなんて……でもこの会社の半分は敵に回したよな」
「敵とは言わない迄も、やっかみの対象にはなってるかも」
「山崎さんの寵愛を独り占めにしているんだ、当然の報いだな」
2、3段下で話しているのは山崎から声を掛けられていたあの男。着こなしからしてまだ新人だろうが、朝から騒々しい奴だ。
しかし……そんなに山崎がいいか? あの出しゃ張り女が?
「ああっ! 坂本主任、おはようございまぁす!」
エスカレーターを上り切り、一安心したところで当の本人に見付かってしまった。
その大声は2階まで吹き抜けになった玄関ロビー全体に響き渡る。出勤してきた同僚の視線が一斉に集約する程だ。
俺が不承不承手を挙げて返すとそのベクトルは俺へと移動する。
だから見付かりたくなかったんだ!