ロ包 ロ孝
 俺はくすぐったくも上機嫌になった。でもこれってもしかして……いいように操縦されているだけかも……。

祖父の家でもそうだったように、またエプロン姿の自分が脳裏をかすめた。

「ねぇ、淳」

 里美が急に顔を近付けて来る。メイクを直してきたのか、オフィスで見るより自然な瞳がそこに有る。

「な、なんだ?」

「あたし達付き合ってるのに、なぁんか忘れてない?」

 そしてくるくるとその大きな瞳が俺に問い掛ける。

「なんだろぉ、な」

 俺は考える振りをして里美の胸を見ていた。

「ねぇ……。どこ見てんのよ!」

「あ、いや……」

「あたし、しっかり歯磨きしてきたのよ?」

 そうか。なんて可愛いヤツだ。俺は思わず口付けた。


───────


 里美が支度を始めてから小1時間。いい匂いがしてきた、和風のご飯だ。

「お? 肉じゃがか。そう、肉じゃがはやっぱり芋と牛肉だけだよな」

「でしょう? バランスは小鉢で取ってね」

 ほうれん草の胡麻汚し、キュウリとザーサイを刻んでかけてある冷奴、メカブとキクラゲの酢の物、味噌汁はタマネギたっぷりの白みそ仕立て。

何の変哲も無い献立だが、どれもウマそうに並んでいる。

「料理もちゃんとするんだな」

「そりゃそうよ。これでも女なんですから」

「じゃ、頂くとしますかね」

 いただきまぁす。ま……マズッ! こりゃ味を教え込むのに苦労するぞ?

「おいしい?」

「お……おお。頑張ったな」

「嘘っ! 顔に出てるもん。淳に喜んで貰えなかったぁ」


< 60 / 403 >

この作品をシェア

pagetop