ロ包 ロ孝
「淳……やっぱり淳で良かった」

 周りに人が居ないのをいい事に、里美がしなだれ掛かってくる。花の香りが鼻腔をくすぐり、肌のぬくもりが里美に包まれた時を思い起こさせる。

「里美……」

 マズイ。盛り上がって来た。歯止めが効かなくなりそうだ。

「俺がした普通の話って、そんなに良かったのか?」

 さり気なく里美を押しやって質問する俺に、抱き返してやらなかった不満の意味も込めてだろう、彼女はこう答えた。

「だってアタシの顔や身体が最高だなんて、聞き飽きてるもの」

 ひと言余計なのが玉に瑕である。


∴◇∴◇∴◇∴


 いつものショットバー。久し振りに垣貫と2人きりで話をしている。今日里美は仕事で別行動をしているからだ。

「へぇ、そうなんだ……でもお前だって来る者は拒まずで、何だかんだ色んな女とやりまくってたじゃないか」

「でも……正直、女との付き合い方が解らなくて、余り長持ちした事は無いな」

 これから先、里美さんとの関係を長持ちさせればいいだろうと言われ、それもそうだと頷いた。

「それでどうだ? 近頃修練の方は」

「ああ、あの里美さんが訳してくれたデータのお陰で、かなり調子いいぞ」

 最近は仕事の関係も色々有って里美と俺はさぼり気味、垣貫ひとりが気を吐いて頑張っていた。

「いや実はな。俺も岩沢さんと並んだんだよ」

 千葉の死後岩沢は本部へ研修に行き【第九声】(在・ザイ)を会得したとは聞いていたが、垣貫がそこ迄行っているとは知らなかった。

「なんだよ! 教えてくれれば良かったのに!」


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