ロ包 ロ孝
 詰め寄る俺に「いや、お前のアドレスを消去しちゃってな」と申し訳なさそうに言う垣貫。彼は電話には滅多に出ないが、メールへの反応は即座にする『メル中患者』である。

「岩沢さんも『トップは渡さない』と気合い入ってるから、今はお互い切磋琢磨という感じかな」

「ふうん……で、どうなんだ? そこ迄修得した感じは」

「う〜ん。実際の日常生活で使う機会は余り無いから……ヒョォォォオ」

 垣貫から高音の風切り音が発されると、身体の感覚が一瞬で奪われる。俺は自分の意志とは関係なく、垣貫の空けたグラスをカウンターに戻していた。

「なっ!」

「マスター! スクリュードライバーお代わりね、そいつに渡してやって! ……ヒョォオオオ」

 マスターからグラスを渡された俺は、お代わりのスクリュードライバーを垣貫の元へ運んでいる、いや運ばされている。

「っくしょう! 俺をお運びさんみたいに使いやがって!」

 垣貫から放たれた動物操作活性共鳴発声の【在】(ザイ)に操られた俺は、自分の身体をコントロールする事がまるで出来なかった。

「こうやってたまに遊ぶ位かな」

「俺で遊ぶな!」

「仕方ないじゃないか。【皆】(カイ・打撃)や【陣】(ジン・刄)をこんな所で使う訳には行かないし、【列】(レツ・盾)を使った所で意味は無い。【在】(ザイ・洗脳)で知らない人を操る訳にも行かないだろ?」

「俺ならいいってのか!」

「まぁまぁ、そんなに恐い顔するなよ」

 ……そりゃ恐い顔にもなる。俺が【在】を修得したら垣貫、まっ先にお前を操ってやるから覚えておけ!


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