ロ包 ロ孝
「性欲もね」
1度抱いてやるとすぐコレだ。男がみんな女に尻尾を振ると思ったら大間違いだぞ?
俺の怪訝そうな表情を読み取ったのか、山崎はサラリと話題を変える。
「そう。それはそうと、あたしの元気の素を知りたくなぁい?」
「別に。俺だって元気が無い訳じゃない」
キンコーン
17階に着いた。廊下の一番奥、右側のドアが俺達の職場だ。
「絶対損はさせないから、話だけでも聞いてみてよ」
「なんだか宗教の勧誘みたいだぞ、山崎」
「またそんなよそよそしい! 『サトッチ』って呼んでって言ってるのに……」
山崎はわざと胸が触れる程近付き、俺の耳に息を吹き掛かけながらまた囁いた。
「あたしの事……『さとみ』って呼んでくれてもいいのよ」
ああうるさい。トットとどこかに行ってくれ!
ひと言ハッキリ言ってやろうと向き直ると、小倉部長がやって来た。仕立てのいいスーツが、今日もビシッと決まっている。
「山崎くん」
尊大さを感じさせない柔和な笑顔を浮かべて、部長は軽く手を上げた。
「はい部長。例の件ですね」
直ぐ様、ヤツは小走りで走り寄っていく。
助かった! これでやっとヤツから解放される。
「坂本主任。山崎くんを借りてくぞ」
どうぞどうぞ、煮るなり焼くなり召し上がるなり、お好きなようになさって下さい。
俺は心の中で呟きながら、返事の代わりに深々と頭を下げた。