ロ包 ロ孝
「蠢声操躯法の古文書では【前】について記載されていない為、我々は全くの想像と理論展開で【第十声】を開発したのですよ」

 そして一呼吸置くと言った。

「旧姓高倉こと坂本さん!」

 ! な、何? 蠢声操躯法? 高倉? 俺の素性が筒抜けになっている! それにここ迄手の内を曝け出すという事は……とうとう開き直ったか。里美の身は大丈夫か? 爺ちゃんは? 俺はどう対処すべきだろうか!

 あまりの事に身体中が汗でびっしょりになり、くるくると思考だけが頭の中を駆け巡っている。

「ああ、坂本さん。もう何もかも調査済みです」

 動揺している俺の心を見透かしたように根岸は付け加える。その微笑みは相変わらず貼り付けたままで。

政府の力はだてじゃない。いつまでも隠し通せる筈は無かった。垣貫もその内情を掴んでしまった為に、修練を口実に消されたのだ!

「それと……お断りしておきますが、我々は坂本さんに対して何ら敵意を持っておりません。寧ろ非常に申し訳無い事をしたと思っているのです。
 そして今頃は、本家のお爺さまの所へも遣いが到着している筈です」

 そうやって安心させる手の内だろうが、いつでも術に移る準備は出来ているからな?

「口封じとかじゃないですよね。爺ちゃん、いや祖父は強いですから沢山死人が出ますよ?」

 そう俺は釘を刺した。あの祖父の事だ、金や色っぽい女性に骨抜きにされたら、あっさりやられてしまうかも知れない。一筋縄ではいかない印象付けをして、大規模な討伐態勢を取らせた方が逆に本気で術を使うだろう。


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