ロ包 ロ孝
「勿論報酬は案件毎に相応な額をお支払い致しますし、国家公務員一種の扱いをお約束致します」

 金や地位に釣られて首を縦に振るようじゃ、うちのジジィと変わらない。

「私は今の仕事に誇りを持って取り組んでいます。突然そんな事を言われても困るんですが……」

 一時は里美に明け渡していた営業成績トップの座も、ここに来てようやっと取り返した所だというのに。

「この場で即答頂かなくても結構です。……山崎さんからはもうお返事を頂いておりますが」

 さすがは政府機関、手回しのいい事だ。祖父ばかりか里美にも話は伝わっているらしい。しかしそれなら話は早い。里美が会社を辞めて迄、そんな仕事に関わるとは考えにくい。

「里美は今の会社を凄く気に入っているんです。残念ですが、私も里美も音力には協力出来ません、諦めて下さい」

 俺は今の生活を変える気持ちは更々無いし、里美もそう言っただろう。この幸せを、何気ない平穏な暮らしを俺は守って行きたい。

しかし根岸は妙に自信有り気で、心なしかにやけているようにも見える。

「お言葉なのですが……もう山崎さんには音力との契約をして戴きました」

 なんだと? 里美は俺になんの相談も無く決めたのか?

俺は戸惑いを隠せなかった。2人のこれからを左右する重要な事柄だというのに、彼女からの打診は何一つ無かった。

相手は手段を選ばない政府機関だ。何かしらの弱みを握られて、体(テイ)よく丸め込まれてしまったのだろうか。

俺は、いくら考えても答の出ない問題に頭をかかえてしまった。根岸はそんな俺に向けて更に畳み掛けてくる。

「坂本さんをうまく説得するようにと、逆に頼まれた位なのですよ?」


< 89 / 403 >

この作品をシェア

pagetop