ロ包 ロ孝
以前の山崎は、病弱でおとなしい、か弱い感じがする女だった。
俺はその頃の彼女に惹かれて一夜を共にしたのだが、時期を同じくしてまるで別人のように変わってしまう。
月に照らされる路傍の花のようだったその存在が、真昼のひまわりへと変貌したのだ。
そして何にでも首を突っ込み、そつなく仕事も片付ける『デキる女』となった山崎。肩書きこそ部下ではあるが、彼女の仕事振りと成果は間違いなく俺を上回っている。
何が彼女をそう変えたのか、全く興味が無いと言えば嘘になる。
仕方ない、少し付き合ってやるか。
∴◇∴◇∴◇∴
「今日は来てくれて嬉しい。坂本さん、何だかあたしの事避けてる気がしたから……」
いつものようにニコニコと、少しお肉の付いた身体を弾ませながらヤツは言った。
気がしていた? いや気の所為じゃない、俺は確かに避けていた。オマエの輝きが眩し過ぎたから。
これは彼女が持つ能力への嫉妬に他ならない。人を妬む自分の弱さを思い知らされたのも、多分面白くなかったのだ。しかしそう認めてしまうと急に、肩の荷が降りたような気持ちになった。
と同時に現金なもので、隣に居る肉感的な女性『里美』が愛しく思えてきた。ヤツはいつも俺の周りをそれこそ犬のように付いて回り、その瞳はずっと俺に向けられていた。俺はその事に気付かない振りをしていたのである。
「俺さぁ……」
気恥ずかしさに言い淀んでいるとすかさず「何なに? 坂本さん」と顔を覗き込んで来る。そうだ、いつもこうして俺の事を気遣ってくれていたっけ。
「いや、いい。もうすぐ会場だ」
「なによぉ、気になるわねっ!」
里美がくるっときびすを返すと、ピンクのフレアスカートが軽やかに揺れる。俺の心に滞っていた何かもそれに連れ、一気に押し流されて行くようだった。