ロ包 ロ孝
 ひとりで考えていても何も解決しない。

「根岸さん。お話の途中で申し訳ないんですが、電話いいですか?」

「ええどうぞ。……でもここは圏外ですから、外に出ないと……」

「じゃあすいません、少し中座します」

 俺は慌てて電波が繋がる場所へと移動した。

「もしもし里美? 一体どういう事だ?」

『そろそろ掛かって来る頃だと思って、1時間前から待ってた』

 里美はいたって普通のテンションだった。何か隠し事や裏事情が有る風には感じられない。

「俺に相談も無く、どういうつもりだよ!」

『だって淳! わくわくするじゃない。あたし達がスパイになるのよ』

 里美の声はいつにも増して弾んでいる。まるでこの状況を楽しんでいるかのようだ。

「俺達は只の一般人だぞ? 特別な訓練も受けてないし、銃だって持てないんだ。それがどんなに危険な事か、よく考えてみろ!」

 俺は里美に思い留まらせようと説得を試みた。しかし。

『あたし達は充分特別な訓練をしたわ。それも銃なんかとは比べ物にならない程、強力な術を修得したのよ?』

 確かに……。

祖父から手直しを受けなかったとしても、あまつさえ【前】を修得出来なかったとしても、俺と里美の2人が居れば下手な1個小隊より破壊力の有るユニットだ。

『あの会社もあたしは好きだけど、それよりも淳と一緒にドキドキわくわくしていたいのよ。
 あたし、そんな人生とは無縁だったから』

 当たり前だ! 普通の女性で死の危険と隣り合わせの仕事をしている人なんか、そうは居ない。

里美は精神的に幼い所が有るから、スリルや危うい物に憧れをいだいているだけなのだ。


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