ロ包 ロ孝
「すすっ、すいません主任、いや課長。山崎さんからはこうやっていつもペット扱いなんすよ……」

 我が社の業務拡大に伴う配置転換の時、栗原は有能な即戦力としてうちの部に配属されてきた。

その時教育係だったのが里美で、栗原はいいように調教されてしまっているのだ。

「勿論身体の関係は無いのよ? だから許してあげてネ?」

 里美が口を挟むが、なんだか気まずい空気になってしまった。

「別に気にしちゃいないよ。じゃあ店を変えようか」

 そう言って腰を上げようとした時だった。

  ガタン!

「ざけんなこの野郎! ぶっ、ぶっ殺してやる!」

 なんだ? 酔っ払いか?

椅子を蹴り倒して立ち上がったひとりの大男。サングラスに刈り込んだ頭、じゃらじゃらと首から下げた金の鎖が如何にもという感じだ。

しかもその手にはバタフライナイフが光っている。

「やばいよ、アイツ」

「Sキメちゃってるみたいだぜ?」

 その男を遠巻きにしながら、こそこそと外野が囁き合っている。男はナイフを振り回し、辺りの人達を威嚇しながら叫ぶ。

「くっ、来んな! なんだぁ? お前らもまとめてぶっ殺してやろうかぁっ!」

 男は黒いブラウスの袖を肘まで捲ってナイフを構え直す。それを見ていた里美が、いたずらっぽく俺に囁く。

「淳、ちょっと試してみる? あたしが【在】でナイフを……」

「よし、それでやってみようか」

 里美はウィンクすると男に向き直って発声する。

「ヒョォォォォォォ」

 僅かに風を切るような音が聞こえたかと思うと、

「ん、なんだ? っ手が、手が勝手にっ……」

 男の左手が右手からナイフを取り上げ投げ捨てる。俺はその後、奴を目がけて発声した。


< 98 / 403 >

この作品をシェア

pagetop