君の虚実に恋してる
ドアからそっと出ると廊下の壁に背中をつけて腕組みをしているかっつ先輩がいた。
思わずぎくりとした。
「エノキ、今から帰るの?」
「はい…」
「送るよ。少し話したいし」
…やっぱり聞こえてたんだ!
「ご、ごめんなさい!」
「何に?」
フッと笑った。
綺麗な顔立ち…じゃなくて。
気づいてない様子だし、きっと浮気の話までは聞こえてないはず。
わたしがふられたのは知ってるのかな。
「告白が聞こえたよ。悪気があった訳じゃないんだけどね」
やっぱり聞こえてたんだ。
「忘れて下さい…」
…切ない。
でも、浮気の話は大丈夫そう。
少し安心。
部長を信じないわけじゃないけどかっつ先輩と浮気のイメージが全く結びつかない。
「エノキの気持ちには薄々気付いてたよ」
「えっ!」
「わかりやすかったからね。でも頑張ったえらいえらい」
髪の毛をわしゃわしゃしてくれる。
その心遣いに心臓を掴まれる気持ちになった。
何も泣かなくてもいい。
まだふられた訳じゃないもの。