君の虚実に恋してる


部長は、佐原瑛史(さはらえいし)。バンドマン。
細くつり上がった色素の薄い目に茶色のさらさらとした髪。
薄い唇からは、儚げな見た目に合わない低めの声。
その口から零れる洋楽がもうたまらない。
わたしの名前を呼ぶときなんか鳥肌ものだ。
去年の文化祭では珍しく流行りの邦楽もやってたけどそれも格好良かったなあ。
今年は何やるのかなあ。


「…ちょっと妄想中ごめんね。そういえばあなたの名前聞いてなかった。漢字付きで教えて?あたし流で占うわ。あたしのことはレイって呼んで」

「すいません…わたしはえのきしのです。木夏木の榎木に志しの野原で志野です。」

恥ずかしい…妄想中とか…!
ま、間違ってないけど…。


このお兄さん、レイさんって名前なんだ。
レイって名前ぴったりだなあ。
中性的なのが合ってて。

そもそもこの人やっぱりそっち系なのかな。



レイさんは紙にさらさらとわたしの名前を書いて計算し始めた。

部長に叶わぬ恋というのは彼に恋人がいるからだ。
よくある話だ。


決して悲しくない訳じゃないが、あんなに素敵な人に恋人がいないほうがおかしいと思う。

そう思って、一人で納得する。





傷つきたくないから。


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