あいされたい
ー…ただいまー


重い重いドアを開けて帰宅すると、自分の声が廊下に吸い込まれていった。


淋しさと安堵感が混じったため息を出すと、奥から人影が現れる。


ーなんだ、あなたなの。予備校はどうしたの?ー


冷たい目


冷たい声


冷たい空気


そのすべてがあたしを圧迫して窒息しそうになる。


ーじ、自習室い、いっぱいで、今日授業ないからっー


喉の奥から無理矢理言葉を引っ張りだすけど、うまく言葉が紡げない。


ー………そうー


ただ一言そう言って、きびすを返すその背中を見送って急いで2階の自室へ向かう。


べッドに体を沈めて天井を見上げる。


荒くなっていた呼吸がだんだん静まり、あたしは目を閉じる。


大丈夫、今日はそんなに機嫌が悪くなかった。


模試の結果さえ見せなければ、普通に接してくれる…はず。


またあたしの頭を撫でて、あたしのことを名前で呼んでくれて、お兄ちゃんと同じように愛してくれる。


きっとそんな日がやってくる。










まだそんな希望もってんの?








いい加減あきらめたら?








あんたはイラナイ子なんだよ








誰からも必要とされない、惨めで可哀想な子。







ママがあんたを愛してくれる日なんて








こないよ。









耳元でそう囁く黒い悪魔は







もう一人のあたしだった。
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