『縛』
波の音が低く響いて、
海がそこにあるとわかる。

「あとちょっとだよ。」

彼が振り返り言う。

「うん。」


白砂に沈むヒールを手に持ち、
歩きだす。


「サラ?!お前、生足?!」


寒空の下、
素足で歩き出す私に、
志央はあきれている。



「そうだよ!

時間なかったから!

って、どっちにしても、
海に来た時点で脱いでるよ!」


海風に消されないよう、
大きな声で応える。


さすがに波打ち際に
足を踏み入れようとは
思わないけど、
限界まで近寄る。


だんだん、砂が水を含み
冷たく、重くなる。


海からの風が強くて


風がバラバラたてる音しか
聞こえない。



だけど、



何か・・・



何か聞こえる。



微かに何か。




「・・ラ!


・・・ラ!


サラ!!」



志央が呼んでる。

短くしたばかりの髪が軽くて
首がちょっと寒い。


痛いほど
打ち付けてくる砂を避けながら
彼の姿が見える場所へもどる。


「志央、呼んだ?」


目の前の男をみて、
戸惑う。



「ど・・したの?志央」





 
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