『縛』
もう、行ったみたいだと
声をかけてみる。

腰に感じた彼の体温は、
癒える事がない。

ぴくっと動く志央に、
意図的に動かなかったんだと、
理解した。

「ありがと。助かった。」

身体を離して、彼がいった。

「どういたしまして。
有名になるのも、善し悪しね。」

結構、人目を気にしている
様子に、苦笑した。

「別に・・。
望んでやってることだから。」

彼は、愛想善くも
悪くもなく、そう言う。


・・・。


余計な事、
いうんじゃなかったと
後悔する。

それどころか

「ねえ、
何で泣いてたの?」

思わぬ不意打ちを
受けてしまった。

「え?」

何でって・・・

いえるわけが・・ない・・。

「さあ・・。何でかな。」

何とか、言葉を繰り出す。

そう、特に、
理由はないはずなんだ。

なのに、次の涙が
溢れそうになる。

「私、そろそろいくわね。
ごゆっくり。」

泣き出す前に、
立ち去りたかった。

腰掛けていた手摺りから
飛び降りて、手を軽く振って
歩き出した。




 
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