『縛』
その時、着信のバイブ振動が、
シートベルトの金具にあたり、
小刻みに震えが伝わって来た。

私の携帯は、ドアの横においた
鞄の中にある。

これは、私の携帯ではない。

志央の・・・
五台目の携帯だ。


甘い疼きも、軽い葛藤も
瞬時に消え去った。


「やっぱ、いい・・。
もう帰る。」


ため息混じりに言い放つと、
彼も腕を解いて、着信相手を
確認する。

「ちっ・・・美穂か。」

言って、彼は、電話に出た。



私の

手首を握ったまま。



英語で繰り広げられる会話。

私が、わからないと
思ってるんだろうか?

そんな目論見なら、
残念な事だろうが、
英語は、結構聞き取れる。


どうも昼間に、彼が
電話をかけた事に寄る、
コールバックの様だ。


手首を掴む手を、
振り払おうと、暴れてみる。

が、
志央は、爪をたてて
離れない様にする。


痛いほどの、力のはずなのに、



私は、覚えのある痛みに、


脱力した。


志央は、無意識で
やってるんだろうか?

わざと、
やってるんだろうか・・・。





 
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