『縛』
シャワーの栓を止めて、
髪を乾かす。

濡れた髪が、
肌に張り付く独特の感覚は
いつになっても慣れない。


そもそも、
髪をのばしはじめたのは
背中に残る無数のキズを
隠すためだった。


切ろうかな・・・。


背中を、誰かに
見せる事もないし。


何となく、
そうすることで
新しい気持ちに、
なれるきがする。


もう一度、寝ようかと
考えていたけど、
思い立ったが吉日とばかりに、
予定を変更して、
行動を起こす事にした。


珍しい事もあるな。

いつもなら、明日から
髪型に合わせる、服の
バランスなんかを考えて、
決めるのに。


自分が、考え無しに、
即行動するなんて。

こんな事もあるんだ。



迷う事なく、
ハサミをいれてもらった髪は、
元来の焦茶のカーリーヘアが
効果を発揮し、肩に届くほどの
長さで、風と遊んでいる。


フワフワした気分で、
駅前から自宅に向けて
寒空の下歩く。

目の端に、いつも見ていた
マンションが飛び込んでくる。


まさか、ここに
住んでいたとはね。


耳元で
室番を囁かれた事を
思い出した。




 
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