逢瀬を重ね、君を愛す
「あの、バカ女」
ひきつる表情のまま、彩音を追おうとした清雅の服の裾がピッとはる。
振り返れば桜乃がその裾を掴んでいた。
「…安倍殿、私は間違えているのでしょうか」
その問いに清雅は答えない。
「蛍が言ってました。彩音様の事。」
それだけで彩音の事情をすべて把握していると清雅は理解する。
それもそうだ。自分たちとは違う服を着て、違う考えをもち、この時代とは似合わない行動をする女。
短いながらもそんな彼女とずっと行動を共にしていた彼女なら、詳しく聞かなくともわかっていたんだろう。
「蛍の言うことは、間違っているとは思いません。正論です。でも」
ぎゅっと掴む手に力が入る。
「正論だと、頭で分かっていても…真っ直ぐな想いは曲げられないっ…」
顔を上げた桜乃の頬を涙が伝う。
「彩音様を…お願いします。」
深く頭を下げた桜乃に、清雅はしっかり頷くとそのまま彩音の走り去った方へと駆け出した。