逢瀬を重ね、君を愛す
なりふり構わず走り続ける。
清雅が連れてきてくれたところは本来なら帝以外入れない場所だったのだろう。
目的の場所にたどりつくまで誰とも会わなかった。


小さく肩を上下させながら、その足を止める。
そして、大きな仏像の前で静かに座禅を組む後ろ姿に視界がにじんだ。

声をかけたいのに、声がでない。
近寄りたいのに、足が動かない。

言いたいことがたくさんある。
自分が思っていることをすべて伝えたい。


脳裏に先ほどの清雅が浮かぶ。
全力で背中を押してくれた人。そして自然と足が進んだ。


誰もいない広い本堂で、ちりちりと風に吹かれて灯りの火が揺れる。
そっと、薫のすぐ後ろで足を止めた彩音はなんと言っていいかわからず立ち尽くした。


「…なんでここにいるの?」


振り返らずにそう呟いた薫の言葉に小さく肩を揺らす。


「…清雅に…連れてきてもらった。」


蚊の鳴くような声だったが、静まりかえったこの場では問題なく薫に伝わったようだ。
なるほどね、と小さく息を吐く音が聞こえる。


「…呆れてる?」

「ちょっとだけ」


その薫の返答に少し唇を噛む。けど、どうしてここまで来たか、その気持ちを伝えたかった。
振り返らず、最初の姿勢を崩さない薫の背中に思いを継げる。
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