逢瀬を重ね、君を愛す
「薫。前、羅生門で私を助けてくれてありがとう。薫が助けに来てくれて、本当にうれしかった。」
あの時の事を思い出すと、今でも自然と笑みがこぼれる。
確かに怖い思いもした。でも、薫が助けに来てくれたという事実が本当にうれしかった。
「あの日ね、私…薫のことが知りたくて…薫の世界が知りたくて、外に出たの。」
小さく薫の肩が揺れた。その反応に少し微笑んで目を伏せる。
「薫が育った、この時代を知りたかった。どんな世界で、どんな人たちがいて、どんな生活なのか。私、教科書でしか知らなかったから。」
この言葉が、自分がこの世界の住人ではないことの証になる。今までは、今後の未来に影響するかもと恐れてあまり外の世界には出なかったが、今は違う。
「私、この時代に残るわ」
「彩…音?」
ゆっくり、薫が振り返る。その表情は信じられないという、困惑の想いが張り付いている。
現世に、自分の時代に未練がないわけじゃない。でも、自分の時代よりも大事なモノができてしまったから。
「決めたんだよ…」
思わず溢れる涙をそのままに、薫を見つめる。
「私、薫のそばにいたいの・・・薫とこの時代で生きる…元の世界に帰れなくてもいい。私・・・薫がいればそれでいい!!!」
そこまで言ってしまえば、体が動いていた。
すぐそばにあった薫に駆け寄り、その体に抱き着く。