逢瀬を重ね、君を愛す
「この時代に…いるって…だって、彩音は…帰りたいだろ…」
茫然とつぶやく薫の言葉が耳元で聞こえる。でも、彩音は薫の肩口に顔を埋めながら首を振った。
「いるよ…この時代で生きる…やっぱり、離れたくない…」
きゅっと、薫の服を掴む手に力を込める。浮かんでくる両親や、学校の友達、自分の時代の思い出が次々と浮かんではその気持ちも押し込む。
現代への想いを払拭するように、顔を上げ薫と向き合う。信じられないという顔の薫に、素直な気持ちをぶつけた。
「好き…だよ。薫…私、薫が好き…」
本当にわけがわからなかった。学校から帰る途中、気付いたら知らない場所で、知らない人で。教科書でしか見たことのない世界で。
不安だった私の前に現れてくれたのが、薫だった。この時代を耐え抜く支えになってくれた人。
「彩音・・・俺は…」
悲痛な表情が胸に刺さる。
何かを伝えようとする薫の視線が下へとずれた。何かから逃げている。そう感じた瞬間に口からもうすでに言葉が出ていた。
「遠花さんのこと…思い出してるの?」
その名前に、薫ははじかれたように顔を上げ、傷ついた顔で彩音を見つめた。
「なんで…彩音がその名前…」
その表情で分かる。まだ、薫の心の中には遠花さんがいる。