逢瀬を重ね、君を愛す
だがそれも、予想していたことだった。
自分を落ち着かせるために小さく深呼吸する。


「清雅に…聞いた」

「…なるほどな」


体の力が抜けたか少し薫の体重がかかってくる。
それをうけとめるように、薫を抱きしめる腕に力を込めた。


「遠花は…俺の初恋だったんだ」


こつっと彩音の肩に額を置いた薫は、彩音にだけ語りかける大きさで話始めた。


「小さいころからずっと一緒で、優しくて、良く笑って、怒ったら怖くて、気が利いて、大人びていて…すべてが俺のためで。ずっと一緒にいたから、勘違いしてたんだ。俺も好きなんだから、遠花も俺が好きなんだって。」

「うん。」

「だから、遠花は俺のもの。東宮から帝になる時、自然と遠花は俺の妃になるものだって勝手に思って…勝手に求婚して…俺のせいで、遠花は…死んだ。」


肩から少し震えが伝わってくる。何かにおびえるように、薫の手が彩音の服を掴んだ。


「遠花は、右大臣の息子と恋仲だったんだ。知らないのは俺と清雅だけだった。清雅も俺が遠花を好きなのは知ってたし、俺と同じ考えで遠花は俺のことが好きだと思ってたんだ。そして、俺が帝になり、遠花を入内させた数か月後…遠花は右大臣の息子と…心中した。」

清雅に聞いた通りだった。
同じ内容なのに、本人から聞く方が何倍も辛さが増す。
でも、これを語る薫が一番つらいはずだ。じゃなければ、こんなに震えるはずがない。思いつめるはずがない。


「俺が…俺の思い違いで、遠花を追い詰めて、閉じ込めて…全部、全部。好きだった、ただ、好きだっただけなんだ…!」


悲痛なその叫びが、嗚咽に変わる。
薫は、どれだけの間苦しんできたんだろう。同時に、ここまで薫が遠花さんを思っていることを痛感する。


―--やっぱり、叶わない恋なのかな…


そう、溢れる涙を薫の肩口に押し付けたときだった。
痛いぐらいに、薫の腕が彩音を抱きしめる。




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