逢瀬を重ね、君を愛す

「遠花がいなくなってから、本当になにも感じない平凡な日々が続いた。それを。彩音、お前が壊してくれたんだ。彩音の底抜けの明るさが、俺を照らしてくれた。」


突然、庭に現れた不思議な女の子。毎日が楽しかった。


「彩音が、俺を救ってくれたんだよ」


ゆっくり顔をあげ、彩音の顔を覗き込む。さまざまな感情が混ざり、涙が溢れるその表情に、そっと額を寄せ微笑む。


「彩音がこの世界に来たのは、やっぱり俺のせいなんだ。」


その言葉を彩音が否定しようとした瞬間、周りの気配が一気に変わる。
周りの景色が歪み、真っ暗な世界になる。

「っきゃあ!」

突然の浮遊感。気が付けば、彩音の体が宙に浮いていた。
わけがわからないでいると、優しい薫の声が響く。


「彩音」


不安げにその声の方を見ると、薫は切なそうに彩音を見つめていた。
彩音の体は浮いているのに、薫の体は、浮いていない。
薫が立ち上がり、浮いている彩音をつなぎとめるように薫はぎゅっと彩音の両手を合わせ握りしめる。


「薫…これ…」


嫌な感じがする。違うと言って。


「お別れだよ、彩音」


薫の声が突き刺さる。


「や…やだ」


必死に首を振る。嫌だと薫にすがりつきたくても、両手を薫に包み込まれているせいで動かせない。
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