逢瀬を重ね、君を愛す
これは義務だから
蛍が告げた翌々月の吉日。
春の優しい日差しが降り注ぐ中、盛大に式が行われる
準備のため、部屋で待機している薫の元に、蛍と桜乃が並んでやってくる。
そっと膝をついた2人の姿に薫の表情が少し和らぎを見せると、桜乃も笑って見せた。
「帝…帝の晴れ姿を見れて…桜乃は本当にうれしいです。」
涙目でそう言う桜乃に苦笑を返すとずいっと蛍が前に出た。
「帝、おめでとうございます」
「…ああ」
一切の感情をそぎ落とした表情に蛍は眉を寄せ小言を言うように薫の耳元へ囁く。
「帝、そのような表情はおやめください。姫にも失礼です」
「…別に、普通だよ」
ぷいと蛍から顔をそらす。そんな態度をとる薫にさらに言い募ろうとした蛍を桜乃がそっとおさめ、促すように外をみる。
気まずそうに目を伏せ、蛍は無言で外に出て行った。
しんと静まり返ったその部屋で、先に口を開いたのは桜乃だった。
「帝、蛍の気持ちも察してあげてください。」
「…」
一切桜乃の方を見ない薫にそれでも桜乃は必死に訴えかける。
「帝の為なのです!これからの長い時間、ともに支えてくれる方は絶対に必要となります。それに、あなたは帝なのです。世継ぎを作り、この国を発展させ、彩音様の時代まで続けねばなりません。」
「わかっている…」
ポソリと、薫の小さな声が聞こえた。
そして、深い息を吐き出すと、どこか疲れた表情を見せる薫はゆっくりと桜乃の正面へと向き直った。
「すまぬ、迷惑をかけたな。つまらない、意地を張ってしまった。」
近くにあったひじ置きを手繰り寄せ、その上に体重をかけると、少し悪戯っぽく笑った。
「頭では理解しておる。ただ、すこし拗ねたかっただけだよ。」
そう言った薫に桜乃は仕方がないわね。と言った表情をみせる。
「…蛍が、ずっと悩んでおりました。」
「うん、ごめん。」
それもわかっていた。「結婚していただきます」そう告げた日から、表にはあまり見せないようにしていたけど、ずっと葛藤があった事を知っていた。
おそらく、他の家臣たちからの圧力もあったのだろう。迷惑をかけたと思っている。