逢瀬を重ね、君を愛す
そっと筆をおくと、薫を見つめる。
目の下のクマを見る限り最近よく寝ていないことがよくわかる。
それに、少しやせている。
―――――それに言いたいこともありますしね…
どう切り出そうか頭を悩ませていると、外から声が聞こえた。
「お待たせいたしました。」
「ああ、はい。」
さきほど頼んだ女房だろうと、外へ出る。
予想通りの品で満足顔で受け取ると笑顔で帝へ振り返る。
「ほら、菓子とお茶が来ましたよ」
「ああ」
そして変わったと言えば帝が甘党に変わったことだろうか。
疲れているのか甘いものを見せると笑顔になるようになった。
いそいそと机の上を片付けスペースを空けたところに持ってきたお茶と菓子を置く。
嬉しそうにたべる帝の姿を見ながら散乱した資料を片付ける。
小さなことだが、帝の癒しがあってよかった。
何も食べない時期があったが、今は菓子を食べてくれるし。その間だけは幸せそうな表情を浮かべてくれる。些細なことだが、休憩できることがあってよかった。そう思いながら片付けていると、ふと先ほどの事を思い出した。
「そういえば、どのような夢をみられていたのですか。」
「ん?夢?」
思い出しように帝をみると、同じように帝も菓子から視線を上げる。
「はい、先ほど寝ていらしたとき、幸せそうな寝顔だったので」
「あー・・・」
視線がそっと横にずれる。そして少し困ったように頬を掻きながら優しく目を細める。
「・・・彩音と・・・逢ってた。夢で・・・」
ふわっと空気が和らぐ。
薫の視線の先が空を見上げその遥か彼方、見えない遠くの何かを優しく見つめるように愛しい表情に変わる。
「・・・よかったですね」
「ああ。」
嬉しそうに笑みを見せるとよしっと。意気込みを入れる。
もう空になった皿を横へのけると、再び筆をとる。
黙って空になった皿を回収すると、丁度タイミングよく女房が来たのか外で気配を感じる。
できる女房だ。と思いながら外へでて皿を差し出すとぴたりと動きを止めた。
「え?」
蛍の声が部屋に響く。その声に不思議に思ったのか薫が顔を上げると、外を向いて固まっている蛍が視界に入る。
「どうした?蛍」
薫の呼びかけに我に返ったのか、慌てて後ろへ下がり頭を下げる。
挙動不審な蛍の動きに顔をしかめながら立ち上がって外へ向かう。
「誰かいるのか?」
丁度壁が邪魔して見えなかったが、そこに誰かいるらしい。
ひょこっと顔を出してみれば、蛍と同じように薫も固まった。