逢瀬を重ね、君を愛す
さらりと流れる黒髪。
地位の低い女房の格好をしているが、その顔は見覚えがあった。
たった1日にか見ていないが、覚えている…
「・・・一の姫・・・?」
「あ・・・」
ふと顔を上げたその面影は確かに、あの日に見た彼女の表情と同じ。
少し照れたように居住まいをただし、ふわりと笑う。
「・・・お久しぶりです、帝」
そこに居たのは、結婚した日以来見ていない結婚相手だった。
すっと表情が固まっていく薫と反対に蛍が我に返る。
「どうなされたのですか」
庇うように薫の前に出て、姫から薫を隠す。
すると姫は少しうろたえて袖で顔を隠す。
「あの日以来、帝のお顔をみていませんので・・・それで・・・」
隠し切れない顔が真っ赤に染まっている。
内心ため息を吐き出すと、蛍は頭を垂れる。
「お部屋までお送りいたします。」
有無を言わせぬ蛍の言葉に、姫は少し迷った後、小さく頷いた。
薫の元を去る寸前、ちらりと振り返った姫は薫に謝る。
「・・・差し出がましいことをしてしまい・・・申し訳ありませんでした。」
「いえ・・・こちらも伺わずすまない」
姫が去る姿を見届けると部屋に戻り席に腰を下ろす。
すると、自然にため息が出た。
「・・・忘れてた」
誰もいない部屋にぽつりと響く。
さすがに、これはまずいと頭では理解できる余裕はある。仕事を詰め込んでいたというのが理由だが、そういえば自分は結婚していたのだと再認識する。
思い返せば、彼女とは結婚式以来会ってない。
通いもしなければ、手紙も送っていない。これじゃあ彼女はただの飼い殺しだ。
結婚したという事実を覚えていたのは最初の1週間ほどだろうか。
だからと言って、新婚気分で通う気にもならない。
そっと胸に手を当て目を閉じる。
――――ここに、彩音がいる限り。
こんな不真面目な行動は彩音にも、姫にも失礼だ。
どうしたものかと、考えれば頭が痛くなってくる。