逢瀬を重ね、君を愛す
頭を抱えて悩んでいると、ふと足音が聞こえた。
「行動力のある姫ですね」
突然部屋に響いた凛と声にびくっと肩を揺らす。
クスクスと聞こえる笑い声の方へ眼をやると、笑いながら清雅が姿を見せた。
「清雅・・・驚かさないでくれ」
「すみませんね」
久しぶりに姿を見せた彼は、最後に見たときよりも少し大人びた印象を与えている。
声も少し低くなったようだ。そして何よりも、自信がついたのか凛としたオーラを纏っている。
それでも、その芯にあるのは幼いころから変わらない幼馴染としての彼と、あの日から強くなっている忠誠心。彼の位も上がり少し砕けた会話ができるようになったのもここ最近の話だった。
はーっと安心の息を吐き出すと苦笑気味に彼を手招きし、近くに座らせる。
大人しく従った彼は笑いながら胡坐をかいて腰を下ろすとパサッと扇を取り出す。
「帝が私をお呼びになったのですよ」
「そうなんだが・・・せめて一声かけてくれ」
すみませんと言いながらも笑い続ける清雅を一瞥すると、清雅に向かい合うように席を移動する。
パチと扇を閉じると姿勢を正す清雅に、雰囲気を和ませるように薫は口を開く。
「元気だったか、清雅」
「ええ。まあ、ずっと家に引きこもってましたからねー」
「晴明も楽しいことをする。」
安倍家の次期後継者として、晴明は清雅を鍛える名目でここ2年ほど自宅で清雅を鍛えていたのだ。本当のところは、あの日彩音を薫に会わせるため術を使ったことと、無断で役目を放棄したことへの罰なのだが。このことは口にはしない。自分にとって、最高の選択をしたという自信があるからだ。
「それより、帝。さきほどの彼女は?」
「えー・・・あー・・・」
すっと清雅の目が細められる。すべてを見透かすようなその視線から逃れるように、薫は視線を泳がせる。
なんと答えていいか分からなくなっている薫にそっと助け船を出す。
「彼女が結婚相手ですか」
「・・・はい。」
もうどっちが上だかわからない。
晴明に精神や体力、力だけでなくいろいろ鍛えられたようだ。
観念したように肩を落とした薫に、クスリと笑うと清雅は部屋へと帰った姫が去った方を見た。