逢瀬を重ね、君を愛す
「良い姫じゃないですか」
そっと風が部屋へ入って小さく髪を揺らす。
シンと静寂が落ちた部屋に、清雅の声がよく響いた。
「・・・ああ、そうだな」
それしか言えなかった。
それだけでも、言えない心に潜めた思いを清雅は悟ってくれたようだ。
そっと視線を庭へと移した清雅は思いだすように彼女の名前を紡ぐ。
「彩音と・・・約束したんです。」
その声に耳を澄ませながら、清雅の眺める庭へと視線を移す。
同時に、さきほど見た夢の光景が脳裏によみがえる。
「彩音が、部屋で待っていてくれと言ったんです。必ず帰るからと。」
「ああ・・・」
「そして俺の元を去っていったんです。そして、彼女は自分の世界へ帰った。」
胸が締め付けられる。短い日々だったが、こんなにも彼女の存在は根強く心に残っている。
夢に思い描いてでも逢いたいと思うほどに。
「私、彼女にふられたんですよ」
「は・・・?・・・え?ええ?え!?振られたって・・・え?清雅が!?誰に!?」
予期せぬ言葉に、思いっきりどもる薫に清雅はしらっと答える。
「彩音に決まってるでしょう、驚きすぎですよ、帝」
「い、いや・・・だって」
まさか清雅が気持ちを伝えているとは思わなかった。
何より、清雅が彩音を気に入っていることは知っていたが、想いを伝えるほどに好意を寄せていることは知らなかった。
思わず口を押えて驚いている薫を一瞥すると、清雅はまた庭に視線を戻す。
「だから、俺は友人として彼女との約束を守りたい。彼女の部屋で彼女を待ち続けるという約束を果たしたいんです。」
そういった清雅の言葉は、もう吹っ切れていた。でも薫は見た。その表情に少しの陰りが出たのを。視線を落とした薫に向き直った清雅は、また凛とした声を響かせた。
「でも彼女が逢いたいと願うのは、薫だろ」
いつの間にか敬語が消え、名前を呼んでいる清雅の声が突き刺さる。
はっと顔を上げると、決意を決めた清雅の整った顔が視界に広がる。
「彩音は、間違いなく薫を愛してたよ」
同時にフラッシュバックされる、あの日。
愛してる。愛してる。愛してる。