逢瀬を重ね、君を愛す

「なんで男同士で抱きしめあってるんですかねー・・・」


感傷に浸っている最中に聞こえた声に驚いてお互いから離れる。
声のした方へ視線をやると、姫を送ってきた蛍があきれ顔で立っていた。


「ほ、蛍・・・早かったな」


取り繕うように蛍に声をかけると、騙されないといったようににこっと蛍の口角が上がる。


「帝、男が好きだというのなら清雅殿も召上げますか?」

「うっ・・・」

「それは丁重に遠慮したいなー」


言葉に詰まる薫とは正反対に飄々と清雅は笑いながら扇を取り出す。
からかわれていることを理解した薫はすねるように、もといた場所へ腰を下ろす。
同時に蛍も清雅の隣りに座る。


「で、お話とは?」


話を切り出したのは清雅だった。
もともと清雅をこの場所に呼び出したのは薫だったのだ。
ああ、そういえば。と仕事机の上をごそごそと荒らすと一枚の紙を見つけ出す。


「ほら。」


ぽいっと清雅の方へ放り投げると、パシッと難なく掴んだ清雅が紙を開き内容をに目を通して見開く。


「こ・・・これは・・・」

「特別移動命令だ。清雅、ようやく帰ってきたんだ。俺の為に働いてくれ。」


簡単に言えば、陰陽寮を出て、帝の側近として仕えるようにしたためられたものだった。


「職権乱用ですね」

「こんな時に使わなくていつ使う。」


しれっと答える薫に清雅は苦笑を漏らす。
自分にとっても嬉しい異動命令だ。大切に懐にしまうと。恭しく頭を下げる。


「・・・御意。」


その姿をみて満足そうにうなずく薫に蛍の一言が突き刺さる。


「丸くいってなによりです。ところで帝。祝言以降一の姫様に逢いに行ってないというのは本当ですか」


音が鮮明に聞こえるようにピシッと薫が固まる。


「え、結婚以降会ってないって・・・そりゃ姫様さみしいよ」


しれっと清雅も答える。


「だから姫もあんな暴挙に出たんですよ。」


その言葉に先ほどの姫が思い浮かぶ。
下女の真似事をしてまで、逢いに来た姫。
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