逢瀬を重ね、君を愛す
「・・・本当、誰かを彷彿とさせる姫ですね」
苦笑気味に笑う清雅に、思わず口を紡ぐ。
はあ、と息を吐き出した蛍は姿勢を正して薫に向き直る。
「帝、今までは帝の気持ちを優先して何も言いませんでした。ですが、そろそろ姫の元に通ってもいいころなのでは?家臣たちの跡継ぎを望む声は収まりません。」
蛍の言葉に痛いところを突かれたように顔をしかめる薫に清雅もしれっと言葉を足してくる。
「それに、今の姫は・・・子供ができないんじゃないか。ならば、私の姫を。なんて声も聞こえてきてますよ。あと、帝が男好きという噂も。」
「ぐ・・・」
自分の事がなんと言われていようと構わない。でも。
自分が通わないだけで、何も悪くない自分に嫁いだだけの姫がそんなに責められていることに少し良心が痛む。それでも気持ちが動かないし、行動に起こそうとも思わない。
「それに、帝は一の姫の事忘れていましたよね?」
「そ・・・それは・・・」
蛍の鋭く嫌な質問に変な汗が流れる。思わず視線を泳がすと、清雅も蛍もそれを肯定と受け取ると、これ見よがしに大きくため息をつく。
「・・・仕方ないだろ、忙しかったんだ。」
罰が悪そうに表情をゆがめると、ちらっと視線を仕事机の方を盗み見る。
それにつられて2人も見ると、納得したような、言いたいことがあるような微妙な表情へと変わる。
たしかに机の上にある仕事の量は多く、それだけでどれだけ忙しいかもわかる。だが、こんなに仕事が増えたのは彩音がポカリと空けた穴を埋めるために薫が仕事を増やしたのだ。
言いたいことがあるような清雅は一度開けた口を静かに閉じる。
更に封をするように扇を口元を押さえ、完全に言葉を飲み込んだ
彩音が空けた穴を埋めたい、何かに没頭すれば考える暇なんてないから。そんな薫の気持ちも理解しているからこそ、蛍も今まで強く言えなかったのだ。でも、もうそんなことを言ってられない。
ゆっくり深呼吸をした蛍は、真剣なまなざしで薫を見つめ、深く頭を下げて言葉を紡ぐ。
「帝、このさいフリだけでも構いません。一の姫の部屋に通うだけでよいのです。どうか、今夜から・・・帝?」
反応がないのを不思議に思い顔を上げると、両手を耳に当てて聞こえないようにしていた。
その行動に思わず呆れてしまい、隣の清雅を見ても諦めたように姿勢も崩してあきれ返っている。
「みーかーど!!!!」
思わず乗り出して薫の腕をつかむと、その耳から手を離させる。
やめろと騒いでいるが、気にしない様子の蛍はしつこいように、耳元で通ってくださいと繰り返し叫んでいる。
「あーもう!!わかってるよ!!!!」
一際大きな声で叫び、蛍の手を払いのけた。
その声に、蛍も動きを止める。
「わかってるよ・・・いつまでもこのままじゃいけないってことくらい・・・」
そう俯く薫を見下ろしながら、蛍は悲痛に顔をゆがめる。薫の気持ちもわかっているからこそ、どうも強くいえないのだ。
「時間をくれ」
この薫の言葉も甘んじて受けてしまう。
内心で薫には甘いな。と自嘲すると蛍の静かな声が響く。
「帝、覚悟を決める時なのかもしれません。」
誰も何も言わない。ただ庭から聞こえてくる音だけが部屋を埋め尽くした。