逢瀬を重ね、君を愛す
―――ああ、なんでこんな日に限って御簾なんかにしたんだろう。
女房の言うことをちゃんと聞いて戸締りしておけばよかった。
後悔が目まぐるしく脳内を闊歩するが、影の動きはとまらない。
差し込まれた手はそのまま御簾を持ち上げ、易々と影の侵入を許してしまう。
「きゃあっ・・・」
かすれたような声で、震えるからだを抱きしめながら、影を見つめる。
中に入ってきた影は、月の灯りの逆光から顔が見えない。
「・・・誰・・・です」
震える声でそう呟くと、ああ。とどこか聞き覚えのある声が響いた。
「すみません、驚かすつもりはなかったのですが・・・」
声が響いた瞬間、体の緊張がするするとほどけてゆく。
優しい声に、信じられなくて思わず口を開けて茫然としてしまう姫にお構いなしに、彼はつぶやく。
「・・・本当なら、先に来ると言っておくべきだったかな」
今度は夢じゃないかと、視界が揺らぐ。
彼がそっと姫に近づくと角度が変わり、月の光が彼の顔を浮かびあげる。
「み・・・帝・・・」
「こんばんは」
茫然とする姫を見ながら苦笑気味に、寝ていた姫の布団の端に腰を下ろす。
その様子を見ていた姫は、はっと我に返り慌ててたたずまいを直し頭を下げる。
「す、すみません!今夜お越しになるとは思わなくて、御もてなしするものが・・・ああ、本来なら常に用意させていなければなりませんのに!!申し訳ございません!!!」
慌てて謝罪を述べる姫に、帝は笑いながら制する。
「いいよ、今まで来なかった俺が悪い。それに御もてなしなんていらないし」
「それはどういう・・・」
帝の言葉に疑問を持った姫が、そっと頭をあげると、広い大きな手が頬に伸びてきた。
そっと頬を撫でられると顔に熱がこもる。
まっすぐ見つめてくる帝の視線と交わると思わず視線をずらしてしまう。
「それを聞くのは無粋だと思うけど」
もうそれだけで理解できた。
視線をまっすぐ戻すとゆっくり迫ってくる帝に高鳴る鼓動を押し込めて目を閉じると同時に唇に優しい感触が重なる。
そっと体に回される腕に、すべてをゆだねた。