逢瀬を重ね、君を愛す
結婚生活8か月。
ようやく、帝がじぶんの元に通ってきてくれた。
夜明けが近いのか、御簾の向こうから微かに光が差し込んでくる。
日の光に照らされた隣で眠る帝を眺めながら、姫は嬉しくなったくすりと笑う。
柔らかそうな黒髪に触れれば、幸せが胸をいっぱいにする。
近くに感じる帝の温もりを感じれば笑みがこぼれる。
間違いなく、今とても幸せだ。
眠る帝に体をよせると、寝息の間に「んっ」と聞こえ、少し身じろいだ。
「帝、お目覚めですか」
そう優しく問えば、ゆっくり開かれる帝の目に一瞬驚きの色が見えたがすぐ理解したようにああと言いながら体を起こす。
「・・・姫も何か羽織らないと風邪をひきます」
そう言って近くにあった着物を手渡してくれる。それを受け取ると袖に手を通す。
彼はこちらを全く見ずに近くにあった脱ぎ捨てた服を手際よく身に着けていく。
そのあっさりとした行動にさみしさを感じていると、ちいさくつぶやく帝の声が聞こえた。
「その・・・今まで全く通わなくて・・・申し訳なかった。」
「い、いえ・・・そのようなことは」
まさか。帝の口から謝罪されるなんて夢にも思っていなかったので、突然の言葉に茫然としてしまう。なぜこんなことになったのか不思議に思っていると、思い出される昨日の行動。
さーっと血の気が失せる。羽織った着物を整えつつ帝の前に回り込むと深々と頭を下げる。
「もうしわけありませんでした!!帝の妻という立場にありながら、部屋を抜け出し、あまつさえ女房の格好までし、お仕事場にまで行ってしまいまして・・・」
「いや。よい!それは、俺が姫のところに行かなかったからで…」
お互いに頭を下げ視線が合うと自然にどちらからともなく吹き出した。
ひとしきり笑いあうと、帝は真面目な表情で笑った時にあふれた涙をぬぐってくれた。
「本当に、今まですまなかった。」
「いえ、本当に気にしていません!」
それでも謝る帝に、すがるように着物の裾を掴むとそっと帝の手が離れる。
「・・・姫には、今までたくさんの迷惑をかけた。俺が通わなかったから様々な圧力があっただろう?」
そう困ったように言う帝に、無言で首を横に振った。
確かに、父や臣下、親戚や女房たちに言われた小言はたくさんある。
みなが口をそろえて言うのだ
『早く跡継ぎを』『もっと帝に尽くして寵愛をいただきなさい。』『お飾り妻』
他にも似たようなことをたくさん言われてきた。そのことを言ってるのだと理解した。
それも帝に伝わったのか、自嘲気味にもう一度「すまない」と謝る。