逢瀬を重ね、君を愛す


そして語られる。
知らなかった元正妻”遠花”の存在と、”彩音”様との恋物語。
その中には信じがたい内容が詰まっていたけれども、その表情から嘘ではないと伝わってくる。
そして、その表情のなかに愛しいと思う気持ちが充満に詰まっていることも知ることになった。
更に極めつけには


「俺は、彩音を今でも思ってる。俺の心は彩音の物だ」


そうきっぱり言われた。
覚悟していたことだけれども、直接言われるというのはやはりダメージが大きい。


「姫・・・あなたの気持ちは嬉しい。」


そう、笑みを見せる帝の顔をみて。
傷ついたような困ったような顔をみて、思わず手を伸ばす。

そっとその頬に触れ、考えるよりも前に言葉が口から溢れていた。


「私の名は雪奈です。雪奈です、帝」


そっと涙が伝う。
想いが相互に通わなくてもいい。
ただ、この人のそばに居たいとそれだけを願った。


「帝、愛してほしいなど言いません。だから、私のことを好きになってください!」

「え?」


まさかそんなことを言われると思わなかったのだろう。意図が分からないと混乱している薫へ、雪奈は覚悟を決めたように顎を引く。


「私を好きになってください。友達のような好きで構いません。特別な感情は望みません、でもせめて・・・せめて私の事を好きになってください・・・生涯、私は・・・あなただけのそばに居ます。ずっと」


頬に当てていた手をそっとおろし、帝の手を握る。
私は、ずっとそばに居る。それが私の、帝に対する想いの形なのだとしたらそれを貫いて見せる。


「ああ、そうか。そうなのか」


茫然とつぶやいた帝は、そっと手を伸ばして雪奈を抱きしめる。
顔を上げられず、お互いの顔は見えないが部屋に立ち込める空気で穏やかな気持ちが広がっていく。


「あなたは、優しい人ですね。雪奈」


何がきっかけで進んでいけるのかは分からない。
でも、雪奈の優しさに頼ってしまっていいのなら。
自分で歩いて行ける日も近いだろう。
< 156 / 159 >

この作品をシェア

pagetop