逢瀬を重ね、君を愛す
「そういう"側に置く"ではなく、"婚姻しろ"といっているのです。身元不明で、身分も後ろ楯もないので中宮には無理ですが、女御か更衣なら手を回します。そうすれば、他の輩に手出しされる心配も」
「やめろ。」
蛍の言葉を遮り叫んだ薫が耳を塞ぎ、項垂れる。
「聞きたくない」
眉をひそめた薫は、一人の女性を思い浮かべる。
愛して、約束して、そして去っていった女性を。
―――遠花
目を閉じれば今でも鮮やかに思い出す。
彼女の姿、声、仕草。
ふっと息を吐き出すと薫は顔を上げた。
「……帝」
控えめに投げ掛けられた声に、薫は笑う。
「―――怖いんだ。閉じ込めてしまう事が」
ぐっと拳を握る。
目を閉じ、笑う彼女の面影を探す。
―――薫。
たどり着いた先にいた彩音の笑顔が彼女の面影を砕く。
―――彩音……
目を開けると、薫はふわっと吐息と言葉を吐き出した。
「……傷つけたくない。」