逢瀬を重ね、君を愛す
ふらふらと自室に帰る。
力なく襖を開けると、桜乃がおかえりなさいと笑顔で迎えてくれた。
襖を閉めず、入り口に佇む彩音を不思議に思った桜乃がゆっくり彩音に手を伸ばす。
そっと頬に触れ、心配そうに覗き込むと、なにも言わずにそっと彩音を抱き寄せた。
彩音のほほに一筋の涙が伝う。
優しく抱き締めてくれた桜乃の着物を掴む。
今は皺になるのも気にせずに桜乃に泣きつく。
「………く、ないっ……!」
嗚咽混じりに叫ぶ。
桜乃はその悲痛な叫び声に目を伏せ、少し強く彩音を抱き締める。
「まだっ………帰りたくないっ……!」
次々と涙をながす彩音に、桜乃も涙を流した。
「私も、まだ。まだ、離れたくありません!」
月明かりが照らす夜。
時代を越えた少女を受け入れてはくれない世界。
味方のいない世界で、出会った彼に恋をした。
決して報われない恋だとは知っていた。
でも、夢を見ることさえ許されない。
突きつけられた現実に、少女は一晩泣き明かした。