逢瀬を重ね、君を愛す
ゆっくり顔を横に向ければ、ただ真っ直ぐな視線で月を見つめる薫の顔が映える。
「…どうかした?」
「う、ううん!なんでもないっ」
慌てて視線をもとに戻す。
そんな彩音に小さく笑うと薫はまた月を見上げた。
「俺、彩音に会えて良かったよ。」
「……かお、る?」
突然何を言い出すのか。
不思議に思いながら顔を向けると、月を見つめたまま話続ける薫。
「彩音と会えて、同じことが繰り返される退屈な日常が崩れた。それは俺にとってかなり重要な事だった。」
なぜか、心がざわつく。
「………なんで、今そんなこと言うの。」
そう尋ねた彩音に薫はそっとうつむく。
「……この、退屈な日常を壊してくれ。俺はそう、願ったんだ。そしたら彩音が現れた。」
そして漸く視線を合わせた。
「…俺がお前を呼んだんだ。」
ぶわっと風が舞う。
彩音の髪がかぜによって舞い上がる。
目を見開いた彩音にはそれ以上何も入って来なかった。