逢瀬を重ね、君を愛す
「あら、桜が。」
満開の桜を風が散らす。
枚散る桜の中にいる彼女はとても綺麗だった。
「さ、東宮。戻りましょう。」
崩れも直し、移動しようとした彼女の手を掴み立ち上がるのを阻む。
「なにか?」
不思議な表情を見せるので、下から覗き込みながら言った。
「昔みたいに薫って呼んでよ、遠花」
そう言うと彼女は決まって困った顔をし、
「東宮、お戯れが過ぎますよ」
といいながら掴んだ腕をそっと外される。
気高く、艶っぽく、薫の心を射止めていた至高の女―――遠花
薫や清雅の幼なじみであり、薫のお世話係であり、薫の初恋の人。
「遠花」
誰より桜が似合う女だった。