逢瀬を重ね、君を愛す
「お前を望んだら…ダメか?」
何に、とは言わない。
でも彼女はわかっている。
分かっているからそんな表情をするんだろう。
「…お戯れがすぎますよ、東宮。」
いつも流すような笑みでいう彼女も、今日はどこか緊張している。
薫がいつもより真面目だから、冗談じゃないとわかっていたのだろう。
フッと視線を外した彼女の顎を救って、目線を合わせる。
「敬語も他人行儀もやめてくれ。ここには俺たちしかいない。たとえ断っても、俺はお前をせめない。だから…今だけ、今だけでいいから…遠花」
そっと彼女の目が伏せられる。
そしてとても小さな声が紡がれた。
「…帝の誘いを断ったなんて知れたら、私は京で生きていけないわ」
そっと、薫の手に彼女の手が乗る。
「…俺が求婚したことを漏らさなきゃいい。」
その手を薫は強く握り返した。
「きっとこれから俺は、この世界に閉じ込められるんだ。まだ…なんの覚悟もないのに、この国の頂点なんて…俺には無理だ!今からでも、その不安に押しつぶされそうなんだ!!だから…そばにいてくれ、遠花。お前だけ…本当に好きなんだ、好きなんだ遠花」
グッとお互いの手に力がこもる。
見上げた遠花と目が合うと、自然と引き寄せられた。
「…答えは聞かない。だから、呼んで…遠花。昔みたいに。」
唇が重なる。
そのまま抵抗なく後ろに倒れた遠花は、腕を薫の首に抱き着きながらささやいた。
「……薫。薫」
その翌年の新年、薫が帝に就任。
そして、更衣として遠花が後宮に入った。