ビターチョコレート
「……ごめん。」
「ううん、ゆうちゃんが謝る事無いよ。」
私はそう言って、池にいる鯉を見つけ、眺めていた。
「お見合いの話…持ち出したの、俺なんだ」
ゆうちゃんは真剣な顔でそう言った。
「え…どうゆう事?」
私が聞いても、ゆうちゃんは少し沈黙した。
そして、ゆうちゃんの重い口が、開いた。
「昔から…千代子の事が好きだったんだ。」
その時、池の近くの木が風邪で揺れた。
私はただ、呆然と、そこに立っていた。
私は、何か言いたいのに、言えなかった。
私がただ俯いていると、ゆうちゃんが口を開いた。
「…今日は、お開きにしようか、俺が、皆に言ってくる。また、後日会おう」
そう言って、ゆうちゃんは歩きだした。
「…ゆ……っ」
呼びとめようと、手を出したけど…
言葉が出てこなくて、出した手を戻した。
…ゆうちゃんが…私の事を…?
私の心臓は早く脈打っていた。
ゆうちゃんは、私にとって、家族みたいなもので…
ずっと、お兄ちゃんみたいだと思っていた。
今更…ゆうちゃんをそんな風に見れないし…
なにより…私は……
「私は…慎一さんが、好きです」
誰にも届かないその声は、空しくその場で消えた。