ビターチョコレート
「慎一さん?迷惑…ですか?」
台所では、ネギを持ったままの千代子が、シュンとなっていた。
別に千代子を責めている訳では無い。
…ただ
「や、そうちゃうけどな。こんな朝早くから俺の面倒見るなんて、しんどいやろ?風邪もうつったら悪いしな」
そう言うと、咳が出た。
咳が出ると余計にだるい。
「ほらあー。やっぱ寝てないとー」
裕貴は俺を部屋に戻そうと、背中を押した。
「…いえっ!全然悪くないです!!」
少しテンポがズレて、千代子が言う。
俺と裕貴は背を向けたまま、顔だけ千代子の方を向いた。
「むしろ、嬉しいです!慎一さんのお世話が出来るなんて!幸せです!最高です!」
「いや、そこまでオーバーに言わんでもええけどな」
「きゃー!慎ちゃん、愛されてるう!」
からかう裕貴を一発、グーで殴る。その後も、千代子は喋り続けた。
「そして、もし私に風邪がうつったら…慎一さんに看病してもらえたら…って、キャー!言っちゃった!!」
ジタバタと、ネギを持ったまま、暴れる千代子。
「…おい。この変態をなんとかしろ。逆に悪化するわ」
裕貴の首根っこをつかみ言う。
「またまたー!嬉しいくせに!!」
再びからかう裕貴に、今度は三発喰らわせてやった。
千代子の立つ台所を見る。きっと、おかゆでも作るつもりなんだろう。
「…おい。ハゲ。」
「はいっ!!」
「…おかゆ、出来たら起こせ」
「…はいっ!!」
千代子は元気良く返事をした。
俺は部屋に戻り、再び眠りにつく事にした。
「…たく、あのハゲ」
そう言って少し笑うと、また眠りについた。