ビターチョコレート

「……とよろしくね！」


「はいっ！いってらっしゃーい」


裕貴…もう出勤時間か。
そんな事を、まだ目を瞑りながら思っていた。


「わー、何か、新婚さんみたい！行ってらっしゃいのチューはー？」


…カッ！！


その瞬間、目蓋が開いた。
俺はドスドスと玄関に近付き、裕貴を殴った。


……ゴッ！！


と、音が鳴り、裕貴はその場に倒れた。


「お前、殺すぞ！さっさと行け！」


俺がそう言うと、裕貴はムクリと起き上がり、玄関のドアノブに手をかけた。


「もー！冗談が通じないんだから、慎ちゃんは！」


そう言って、ドアがバン！と閉まった。


「…ほんま、しょーもないヤツやわ」


そこでため息が出るはずが、また咳が出た。


「ああ、ほらー。寝ててください」


「…ええよ。もう、できるやろ？」


「あ、…はい。」


俺と千代子はリビングに戻り、俺はテーブルに座った。
テーブルに置かれた新聞を読もうとするが、頭がグラグラして見る事ができなかった。


「なんか、新婚みたい！」


千代子はそう言いながら、目の前におかゆを出す。
新聞をしまい、手を合わせた。


「はあ？お前も裕貴と同類か」


少し笑って、おかゆを口に入れるが、
鼻水で鼻が詰っているせいか、味がしない。


…でも、食感は悪くない。
次々と口に入れる。


「私も、真知子ちゃんと修司みたいにラブラブ新婚生活味わいたーい！」


「俺は、あの二人みたいになりたいとは思わんけどな。」


あんなアホらのどこがええんや、と少し笑う。
まあ、幸せなんやろうけど。なんて事を考えてると、千代子がこちらを心配そうに見ていた。