ビターチョコレート
「婚約の話なんだけど…」


言うのを躊躇っていると、次の台詞が出る前に、ゆうちゃんが口を開いた。


「婚約解消は…しないよ?」


「えっ?」


私は目を見開いた。
なんで…分かったの?


「俺…小さい頃から、ずっと千代子が好きだった。後から出てきた男に…千代子は渡さない」


ゆうちゃんの目は、真剣だった。


「なんで…知ってるの?」


「さっき…見てた。偶然だけど…。」


ゆうちゃんは悲しそうな顔をして、下を向いた。


「ゆうちゃんの事は好きだよ?でも、私にとっては家族みたいなもので…結婚なんて、考えられないよ…」


私は俯き加減で言う。


「今日は…帰るよ」


ゆうちゃんがそう言い、ソファーを立つ。


「…ゆうちゃん!」


すれ違う時、呼び止めるけど、止まってくれなかった。


「千代子…俺、諦めないから」


振り向かないまま、ゆうちゃんはそう言った。
そのままドアは閉まり、パタン…と、空しく音だけが鳴った。


私はしばらくその場で固まって、その後、ある場所へと向かった。


ピンポーン。


インターホンを鳴らし、出てくるのを待つ。


「はーい。…って、チヨちゃん?」


向かった先は、真知子ちゃんと修司の新居だった。


「どうしたの?」


真知子ちゃんがそう言うと、私はしばらく停止する。
真知子ちゃんが不思議そうに私を見る。


…駄目だ、止まらない。私の目からは涙が溢れ出てた。
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