ビターチョコレート
第四章☆慎一SIDE
千代子が、あそこにいた事。
俺はただ、“親の都合”だと思っていた。


現に俺もそうやし…。


あの後、S女と一緒に千代子の元に行ったけど、もう、千代子の姿は無かった。
S女は気を使わせてくれたのか、その場は帰るという形になった。


すぐに、千代子に電話をしようと思った。
…でも、何故か…今日、日曜日まで…話す気にはなれなかった。


俺は決意を決めて、玄関のドアを開けた。
待ち合わせのカフェ。千代子が暗い顔をして座っていた。


ただの気のせいか、単なる悩み事か、それとも、あの日の事か…。
出来れば、あの日の事では無いと願い、声をかけた。


「なんや?ぶっさいくな顔して」


「え…いえ……」


そう言って顔ごと視線を逸らし、また、戻す。
何だか挙動不審な千代子の顔を見て、胸がチクリと痛くなった。


嫌な予感が、当たった気がした。


「…千代子」


「はいっ?」


「頼みがあるんやけど」


俺がそう言うと、千代子は一時停止をし、しばらくして口を開いた。


「はいっ!なんなりと!」


「俺の親父に会ってくれへんか?」


千代子は、頭にハテナマークを飛ばした様な顔をし、少し首を捻らせた。


「彼女として、紹介したいねん」


コホン…と、ひとつだけ咳をして、言った。
そう言うと、みるみるうちに、千代子の瞳はキラキラと輝いた。


「はいっ!喜んで!」


笑顔で答える千代子。
ホッと胸を撫で下ろす。


さっきの嫌な予感は、外れていてほしいと、願った。
< 31 / 45 >

この作品をシェア

pagetop